東京証券取引所の仕組みが変わった
2022年4月から東京証券取引所の市場区分が再編成されたことをご存知でしょうか。
東証一部は「プライム市場」という名の市場に再編される予定で、現在の4市場から3市場となりました。
そこで今回は、東京証券取引所の再編成について、解説します。

1. 新たな市場区分
2022年4月から東京証券取引所は、東証一部、東証二部、マザーズ、JASDAQ(スタンダード、グロース)の4区分から「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3区分となりました。

プライム市場
プライム市場は、3つの市場のなかでもっとも厳しい上場基準の市場。個人はもちろん、プロの機関投資家も安心して投資対象にできるだけの流動性・ガバナンスを兼ねそろえた安定企業が上場します。
・プライム市場の上場基準、東証1部との違い

東証1部と主な基準を比べてみると、株主数は2200人以上から800人以上と少なくなりますが、流通株式時価総額は10億円以上から100億円以上と10倍です。
つまり、株主は少なくてもよいが、市場で売買されている株式=流通株式が多くないといけないということです。
スタンダード市場
スタンダード市場は、一般投資家が円滑に売買できる流動性を備えた銘柄が上場する市場です。同時に基本的なガバナンス・収益基盤を兼ね備えていることも求められます。
・スタンダード市場の上場基準、東証2部・ジャスダック(グロース)との違い

流通株式の考え方はプライム市場と同様です。収益基盤の基準は、最近1年間の利益1億円以上とシンプルになりました。株主の期待に応える経営努力にさらに注力できると考えられるでしょう。
グロース市場
グロース市場は、将来性、成長性のある企業向けの市場。ジャスダック(グロース)、マザーズの上場企業が移行すると考えられます。形式的な基準は決して厳しいものではありません。
・スタンダード市場の上場基準、東証2部・ジャスダック(グロース)との違い

ただし、事業計画の合理性、企業経営の健全性、公益性はしっかり判断されることになります。成長企業は、相対的にリスクは高くなります。そのため、数字に表れないことも重視された上場基準になっています。
2. 新市場区分のコンセプト・上場基準
コンセプト
新市場区分のコンセプトは以下のとおりです。
プライム市場 | 多くの機関投資家の投資対象になりうる規模の時価総額(流動性)を持ち、より高いガバナンス水準を備え、投資者との建設的な対話を中心に据えて持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場 |
スタンダード市場 | 公開された市場における投資対象として一定の時価総額(流動性)を持ち、上場企業としての基本的なガバナンス水準を備えつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上にコミットする企業向けの市場 |
グロース市場 | 高い成長可能性を実現するための事業計画及びその進捗の適時・適切な開示が行われ一定の市場評価が得られる一方、事業実績の観点から相対的にリスクが高い企業向けの市場 |
上場基準
各市場区分のコンセプトに応じて、流動性(注1)やコーポレート・ガバナンス(注2)などに係る定量的・定性的な上場基準がそれぞれ設けられました。
また、各市場区分への新規上場基準と上場維持基準は、原則として共通化し、上場会社には、上場後においても継続して各市場区分の新規上場基準の水準を維持していただくこととします。
さらに、各市場区分はそれぞれ独立しており、上場会社が他の市場区分へ変更する場合には、変更先の市場区分の新規上場基準と同等の基準に基づく審査を改めて受け、その基準に適合することが必要です。
(注1)流動性とは、市場に出回る株式の数・金額の多寡を示す尺度であり、流動性が高いほど、投資者にとって売買しやすい銘柄であると言えます。
(注2)コーポレート・ガバナンスとは、コーポレートガバナンス・コードにおいては、「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会等の立場を踏まえた上で、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」とされています。



3. 市場区分見直しの背景
東京証券取引所(以下「東証」という)には、市場第一部、市場第二部、マザーズ及びJASDAQ(スタンダード・グロース)の4つの市場区分がありました。
これらの市場区分は、東証と大阪証券取引所が2013年に株式市場を統合した際に、上場会社や投資者に影響が出ないように、それぞれの市場構造を維持したことによるものです。
しかし、これらの市場区分については、以下の2つの課題がありました。
- 各市場区分のコンセプトが曖昧であり、多くの投資者にとっての利便性が低い。
具体的には、市場第二部、マザーズ、JASDAQの位置づけが重複しているほか、市場第一部についてもそのコンセプトが不明確。 - 上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けが十分にできていない。
例えば、新規上場基準よりも上場廃止基準が大幅に低いことから、上場後も新規上場時の水準を維持する動機付けにならない。
また、市場第一部に他の市場区分から移る際の基準が、市場第一部への新規上場基準よりも緩和されているため、上場後に積極的な企業価値向上を促す仕組みとなっていない。
東証一部の銘柄数は多く、特徴が明確でなくなった
現在の東証一部には約2,000社以上の企業が上場しており、東証二部に関しては473社上場していました。世界的に見ても東証一部の上場数は増えすぎており、日本の最上位市場としての質の低下が問題となっていました。
その理由の一つとして、東証一部企業の中で現在の上場基準である時価総額250億円を下回る企業が3割近くもいたためです。JASDAQやマザーズに関しても、新興企業の市場として似たイメージがあり、この2つの市場の明確な違いがありませんでした。
市場ごとに明確な基準やイメージが無いことで、海外投資家が投資を行いにくく、新規で投資をはじめる人にとっても投資が行いにくい現状がありました。
4. まとめ
かつては一流企業であることを示す称号であった「東証一部上場」が、上場企業数の増加とともに、ブランドと実態としても日本を代表する企業群を表すものではなくなりつつありました。
というのは、東証一部に上場すれば、代表的な株価指数である東証株価指数(TOPIX)の対象になります。日本銀行(日銀)は現在、金融緩和政策の一環として、TOPIXなどに連動する上場投資信託(ETF)の買い入れを行っています。日本銀行はこれまで最大年間7兆円(2020年コロナショック時)規模の上場投資信託(ETF)を購入しており、株価の押し上げ効果がありました。
東証一部の上場企業はこうした大きな機関投資家からの投資マネー流入により、企業価値の向上をおろそかにしているケースも指摘されており、経営努力を怠っている企業に対しても、東証一部上場というだけでこのような大きな資金が投じられ、株価が下支えされてしまっているといった問題があったようです。
国内、国外の投資家や企業にとって市場区分が分かり易くなるのはいい事です。
この再編成によって、すぐに投資家や取引総額が増えるということにはならないかもしれませんが、きっかけなればいいと思います。