共働き世帯の住宅ローン借入時の留意点

都市部においてはマンション価格の高騰が続いています。一方で、リモートワークの普及により、郊外地域においてこれまでよりも床面積の大きな戸建て住宅に居住する動きも見られようです。これらの動きは、いずれもマイホームの価格を上昇させる要因として働きますが、低金利が続いてきた住宅ローンは、利用者の購入可能額を引き上げてきました。

最近は、夫婦共働き世帯の増加に伴い、借入金額の増額を目的として夫と妻それぞれで住宅ローンを組むローン利用者も増えてきています。

増加が続いている共働き世帯が住宅ローンを借り入れるに際して、ペアローンや収入合算などの制度の活用をどのような点に留意して選択すればよいのか、また、それぞれの制度を利用するに当たってどのような点に注意すればよいのかを解説します。

1. 共働き世帯の住宅口ーン4パターン

共働きで両方に収入のある夫婦が住宅を購入する場合に選択できる住宅ローンの組み方のパターンは主に以下の4つである。

①どちらか一方が単独で住宅ローンを組む

夫婦のどちらか一方が単独で住宅ローンを契約する方法。この場合、契約者本人のみの収入や年齢などを基に、借入可能額の計算や審査が行われます。

②夫婦それぞれが住宅ローンを組む(ペアローン)

マイホームに対して夫婦それぞれが1本ずつ、計2本の住宅ローンを契約し、夫婦が互いに連帯保証人になる方法。 「ペアローン」と呼ばれます。

それぞれの契約は別契約であるため、金額や期間など借り入れ条件は個別に決められますが、借入先金融機関は同一で、購入する物件に夫婦が同居することが原則となります。

③収入合算(連帯債務)

1本の住宅ローンを組み、一方が債務者(主債務者)、もう一方が連帯債務者となってローンを契約する方法。連帯債務者は、主債務者と同一の債務を負うことになります。この場合、夫婦の収入を合算して借入可能額の計算や審査が行われます。

代表的な金融商品はフラット35であるが、フラット35を利用する場合、収入合算者(連帯債務者)の収入の全額を合算することができます。

④収入合算(連帯保証)

③と同様、 1本の住宅ローンを組み、夫婦の収入を合算して借入可能額の計算や審査が行われ、一方が債務者(主債務者)、もう一方が連帯保証人となってローンを契約する方法。
民間金融機関の住宅ローンはこの④のタイプが中心です。

連帯保証人の合算できる収入は金融機関によって異なりますが、連帯保証人の収入の半分まで合算できるケースが多いようです。

図表1 共慟き世帯における住宅ローンの組み方のパターンの特徴(夫が主債務者となる場合)

2. 所有名義など住宅ローンの組み方のポイント

⑴所有名義について

マイホームなど不動産を取得した場合、その所有名義は購入資金を出した割合に従うことが基本になります。そのため、 (②ペアローンの場合や③収入合算(連帯債務)の場合は原則として夫妻の共有名義で、夫と妻の資金拠出割合が2対1であった場合は、所有権の持分割合も2対1とするのが基本です。

仮に持分割合を1対1とした場合は、夫から妻に財産の贈与があったとして贈与税が課される可能性もあります。一方、 ①単独ローンの場合や④収入合算(連帯保証)の場合は原則として主債務者の単独所有となります。 ④の連帯保証人は債務者ではなく、あくまで主債務者がローンを返済できなくなった場合、主債務者に代わって返済義務を負う立場です。ただし、夫の①単独ローンの場合や夫が主債務者の④収入合算(連帯保証)で、妻が自己資金を拠出している場合は、それぞれ拠出した自己資金額の割合に従って所有権の持分を取得するのが基本です。

⑵住宅ローン控除について

税金の控除についても、どの契約方法を選択するかによって影響を受けることになります。住宅ローン利用者については、年末の住宅ローン残高に応じ、入居の年以後一定期間の各年の所得税を減額する住宅ローン控除の制度(住宅借入金等特別控除)があります。 (②ペアローンと③収入合算(連帯債務)の場合は、夫と妻それぞれが債務者となるため、それぞれが住宅ローン控除を利用することができます。一方、①単独ローンと④収入合算(連帯保証)の場合は契約者本人しか住宅ローン控除を利用することができず、 ④の連帯保証人は、住宅ローン控除を利用することはできません。

住宅ローン控除は住宅ローンの年末残高に控除率を乗じた金額が所得税額から控除される税額控除であるため、一定の所得を得て所得税を納付している場合に限り、そのメリットを受けられます。そのため、 ②ペアローンや③収入合算(連帯債務)の場合は夫婦のうち一方の所得額が低く、所得税を支払っていないような場合、あるいは近い将来に育児休業や介護休業を取得する予定があるような場合は、住宅ローン控除を十分に活用できないケースが考えられます。

⑶団体信用生命保険について

契約方法の選択によって影響を受けるもう一つの制度が団体信用生命保険(以下、団信)である。団信は、住宅ローン返済中の契約者が死亡または所定の高度障害状態になった場合、生命保険会社が住宅ローン残高に相当する保険金を金融機関に支払い、債務を弁済する仕組みです。団信に加入するのは主債務者であるため(②ペアローンは夫妻それぞれが団信に加入することになりますが、①単独ローンの場合は契約者のみ、 ④収入合算(連帯保証)の場合は主債務者しか加入できません。 ③収入合算(連帯債務)の場合は、原則として主債務者のみ加入となりますが、一部金融機関の商品では連帯債務者も加入できます。

以上のように、契約方法によって団信の加入者は異なります。 ①単独ローンの場合、契約者の死亡によって債務がすべて消滅するため、配偶者が返済する必要はありません。しかし、 ②ペアローンの場合は、一方が死亡したとしても原則として債務が弁済されるのは死亡した債務者の住宅ローン残高のみであり、もう一方の住宅ローンは返済を継続する必要があります。

また、 ④連帯保証人の場合や一方しか団信に加入できない③連帯債務者の場合は、夫婦のうち団信に加入していないほうが死亡すると、収入が減る一方、住宅ローン残高は減らず、家計が苦しくなるリスクがありあます。契約に当たって、団信の弁済の仕組みについては十分注意したいところです。

3. 仕組みを理解してそれぞれの世帯に合った住宅ローンを

他の留意点として、夫婦が離婚した場合のその後の返済のことがあります。②ペアローンや③収入合算(連帯債務)、④収入合算(連帯保証)の場合、離婚後も双方に返済義務が残ることになり、一方の返済が滞ってしまうと、もう一方がすべてを返済しなければならなくなることに注意が必要です。離婚後、一方が家に住み続け、もう一方は別の家で暮らす場合、後者は住まない家の住宅ローンの支払いを続けることになり、離婚しても金銭面ではなかなか離れられない、ということも起きてしまいます。

離婚の際にはこのような事態を解消するために、 ②ペアローンや③、 ④の収入合算のパターンから①単独ローンに借り換えるケースもあります。借入時には想像できないかもしれないが、将来的な借り換えも想定しておいたほうがよいかもしれません。

単独ローンへの借り換えに当たっては、注意したい点がいくつかあります。

②ペアローンの一方の借り入れをもう一方が肩代わりして①単独ローンとする場合、夫婦間で贈与が発生する場合があり、贈与税が課される可能性があります。また、どちらか一方の①単独ローンに借り換える場合も通常はローン審査があり、借入額が増加する場合には返済能力によっては借り換えが認められないことも考えられます。

組み方によっては諸費用が多くかかるといったデメリットもあります。例えば②ペアローンの場合は契約を2本組むこととなるため、その分、金融機関へ支払う手数料や司法書士に支払う登記手数料なども増えることになります。

このように、ペアローンや収入合算など共働き世帯が利用する住宅ローンの組み方は複数あり、どの組み方を選択するかによって税金の納付額や死亡時などの保障内容が変わってくるので、それぞれの契約方法について内容をよく理解したうえで、世帯の状況に合った住宅ローンを選択できるようにしておきたいですね。