認知症の人の財産管理

親が認知症になったら、財産管理はどうしますか?

認知症になってからでは、預金の引き落としや資産売却など支障が出てきます。

例えば、娘Aさんが、母親のBさんが将来、 認知症になることに備えて、 財産管理をしたいと考えている場合、 信託契約(家族信託)を結んでおくことができます。

財産の承継だけなら、 公正証書遺言を作成しておけば良いのですが、財産の管理を行っていくためには、 家族信託は有効な手段のひとつです。

※ 任意後見契約も活用できますが、ここでは家族信託に焦点を絞ってお話します。

家族信託はどんな場面で活用できるのか

例えば母親Bさんが高齢になって、オレオレ詐欺などの特殊詐欺によって、老後の生活資金をだまし取られてしまう危険を避けるため、母親Bさんが娘Aさんとの間で家族信託契約を締結して、財産の管理を娘Aさんに委ねておくことで、安心して老後を過こすことができます。

認知症になると、預貯金の出し入れができなくなりますが、家族信託契約を締結しておくと管理人の娘Aさんによって引き出すことができます。

銀行などでは、認知症になった方が預貯金の引き下ろしをしようとしても断られてしまいます。 また、娘Aさんが母親Bさんの代理人として引き落としをしようとしても、本人の意思確認ができないと銀行は引き落としには応じてくれず、実際、預金が凍結されてしまいます。

しかし、認知症になる前に、母親Bさんを委託者、娘Aさんを受託者とする家族信託契約を締結し、金銭を信託財産としておけば、 娘Aさんが母親Bさんの需要に応じて預貯金の引き下ろしができますので安心です。

家族信託で金銭を管理する方法

受託者(娘A)は自分の財産と信託財産とを分別して管理する義務があり(信託法34条)、通常、信託口口座を設けて管理します。

信託口口座(しんたくぐちこうざ)とは

信託契約によって受託者が金銭を管理する信託財産用の口座。

口座名義に「信託口」と「委託者および受託者」を記名するため、信託を利用した口座として受託者が金銭管理していることを明確に判断できます。

信託財産には倒産隔離機能と言って以下の機能があります。

①受託者個人の債権者が信託財産に差押えをすることができない機能

②受託者個人が破産しても信託財産は破産債権者の配当等のために形成される破産財団に組み込まれない機能

信託口口座を開設してここに信託財産である金銭を預金することにより、その預金が信託財産であることがより明確になるというメリットがあります。また、信託財産ですので、委託者、受託者が死亡してもその口座は凍結されません。

信託ロ口座の開設には、事前に金融機関に相談しておく必要があります。金融機関は口座開設に当たり、信託契約が去律上問題ないことを担保するために公正証書にすることを求めるのか通常で、金融機関によっては、一定の金額以上の預金があることや口座開設料を求めるところもあるようです。

また、家族信託を設定する場合、受益者(受託者から信託財産に係る給付を受ける権利などを有する
者のことをいう。信託法2条6項)を委託者(母親Bさん)にしておく(自益信託)と良いでしょう。

認知症になった場合の不動産売却

母親Bさんが将来、認知症になって老人施設に入居するのに掛かる費用の捻出等の為に、自宅不動産を売却する際、認知症になった場合は不動産の売買契約の締結はできません。

契約を締結するためには意思能力が必要で、認知症になって意思能力がない状態になった場合には、契約を締結することができません。そこであらかじめ、母親Bさんを委託者、娘Aさんを受託者とする家族信託契約を締結しておき、信託財産として母親Bさん所有の自宅不動産を定めておきます。

不動産を信託財産として信託契約を締結する場合、受託者に所有権移転登記がされる

信託契約を締結した後、委託者(母親B)と受託者(娘A)は信託を原因として受託者(娘A)に所有権移転登記手続をし、同時に受託者(娘A)は信託登記(信託法34条1項1号)手続を申請します。これによって、形の上では受託者(娘A)に所有権が移転しますが、受益権者は委託者(母親B)となっていますので、委託者(母親B)は実質的には所有権を有しているのと同様の利益を享受することができます。受益権者である委託者(母親B)は、そのまま住居である信託不動産に居住し続けることができます。

いよいよ受益権者(母親B)が認知症を発症して老人施設に入居する必要が生じた場合は、受託者(娘A)は信託財産である不動産を売却して、委託者(母親B)の老人施設への入居費等に回すことが可能になります。

不動産の売却の際は、委託者(母親B)が認知症になっていても、売買契約の売主は受託者(娘A)ですので、委託者(母親B)の意思能力の有無は契約の効力に影響しません。

両親に認知症の症状が現れ始めたら、何をやるべきか迷ってしまうと思いますが、財産を処理するのに家族信託というものがあると知っているだけでも、選択肢が増えますので、参考にしてください。

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