年金の繰り上げ・繰り下げ

年金制度改正法により2022 年4月1日から、老齢年金の繰上げ ・繰下げ受給について改正がありました。以前に「繰上げ ・繰下げ受給」について改正があり、その時は、「繰上げ ・繰下げ受給」ができるようになったと話題になったのですが、今回の改正はあまりニュースになっていないような気がします。ここでは、さらに改正された老齢年金の「繰上げ ・繰下げ受給」について解説します。

1. 繰上げ受給の概要と改正点

老齢年金の受給開始年齢は65 歳が原則とされていますが、 それより早く受け取りたい場合は、60 歳から65 歳になるまでの間の任意の時期に繰上げ請求を行うことができます。 ただし、 繰上げ請求した月から65歳到達月の前月までの月数に応じた減額率により、年金額が減額するのですが、その減額率が、1カ月当たり0.5%から0.4%に引き下げられました。

繰上げ請求した月の翌月分から、生涯にわたり減額された年金を受け取ることとなる。減額率0.4%の場合、最大24% (0.4%
X 60カ月)の減額となります。

※ 1962年4 月1日以前生まれの人の減額率については、 改正前の0.5%で変更はありません。

2. 繰上げ受給の注意点

⑴老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時繰り上げ

繰上げ受給を請求する場合、原則として、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方のみを繰り上げることはできず、 両方を同時に繰り上げなければなりません。特別支給の老齢厚生年金についても繰上げ受給することができ、 老齢基礎年金と同時に繰り上げることとなります。また、特別支給の老齢厚生年金をすでに受給中の人が、老齢基礎年金を繰り上げて受給することもできるます。

⑵取り消しできない

繰上げ受給は一度請求すると取り消したり変更したりすることができません。国民年金に任意加入したり、免除等を受けた国民年金保険料の追納を行ったりしたいと思 っても、 老齢年金を繰上げ請求した後では、 任意加入被保険者にもなれず、 追納を行うこともできないので、慎重に判断する必要があります。

⑶寡婦年金が受け取れない

寡婦年金の受給がある人は注意が必要です。自営業者等(国民年金第1号被保険者)の夫が死亡した場合、 一定の要件を満たせば妻は65 歳になるまで寡婦年金を受給できます、 しかし、妻が繰上げ受給していると、寡婦年金を受け取ることができなくなります。

⑷遺族厚生年金を受け取る際に影響

会社員等が死亡し、 配偶者が遺族厚生年金を受け取れる場 合でも、 配偶者が繰上げ受給していると、65 歳になるまでの間は遺族厚生年金と繰り上げた自分の老齢年金のいずれかの年金を選択することとなります。夫が死亡した場 合、遺族厚生年金の金額のほうが高いことが多いので、遺族厚生年金を選ぶと妻が繰り上げた自分の老齢年金を受け取ることができません。 65歳になれば遺族厚生年金と老齢基礎年金が併給されるますが、老齢基礎年金を繰り上 げていた場合は、減額されたままの金額で支給されます。

⑸障害年金の請求ができない

繰上げ受給していると、事後重症(障害認定日には症状が軽かったが、後日症状が悪化し法令に定める障害状態となること)による障害年金の請求ができません。

3. 繰下げ受給の概要と改正点

老齢年金は、受給時期を65歳より繰り下げて受け取ることもできます(以下、65 歳前に老齢年金の請求をしているものとする)。改正により、 繰下げの上限年齢が70 歳から75 歳に引き上げられ、 66 歳から75 歳になるまでの間の任意の時期に繰下げの請求ができるようになりました。

※ 対象となるのは2022年3 月 31日時点で、 70歳未満(1952年4 月2日以降生まれ)の人です。


繰り下げた期間によって年金額が増額され、1カ月当たり0.7%の増額率で計算され、75歳まで繰り下げると、 最大84% (0.7% × 120カ月)の増額率となります。老齢基礎年金に付加年金が上乗せされる場合は、同じ利率で増額されます。


老齢基礎年金と老齢厚生年金を繰り上げる際は同時に行わなければなりませんでしたが、繰り下げは別々に行うことができます。ただし、 特別支給の老齢厚生年金には、繰下げ制度はありません。


なお、 繰下げ待機期間(老齢年金の受給権発生日から繰下げ請求を行うまでの期間のこと)中に、 繰下げ受給を選択しないで65歳から請求時点までの年金を一括で受け取ることもできます。この一括受給についても改正が行われ、請求から5年以上前の年金は時効により受給できませんでしたが、請求の5年前に繰下げ受給の請求があったものとみなして増額された年金を一括で受け取ることができるようになった。 1952 年4月2日以降に生まれた人または2017年4 月1日以降に受給権が発生した人が、 2023年4 月1日以降に老齢年金の請求を行う場合が対象となります。

例えば、 73歳の誕生日に一括受給を選択した場合は、請求の5年前(68歳の誕生日)に繰下げ請求したものとみなして繰下げにより増額された年金が5年分、一括支給され、その後も増額された年金を受け取ることができます。

4. 繰下げ受給の注意点

⑴老齢厚生年金の全部または一部が支給停止

65歳以降も働いて厚生年金に加入している場合、在職老齢年金制度により年金額が調整され、老齢厚生年金の全部または一部が支給停止されることがあります。年金を繰り下げたとしても、65歳から受給を開始したものと仮定して支給停止額が算出され、支給停止された部分については増額の対象外となるので、注意が必要です。

⑵繰下げ請求ができないことも

65歳の誕生日の前日から66歳の誕生日の前日までの問に障害年金や遺族年金を受け取る権利があるときは、繰下げ請求ができないので注意が必要です。

ただし例外として、障害基礎年金のみ受給できるときは老齢厚生金に限り繰下げができます。

66歳以降の繰下げ待機期間中に遺族年金、障害年金の受給権者となった場合は、その時点で繰下げ請求したものとして老齢年金の金額が計算されます。また、加給年金額や振替加算の要件を満たしていても、繰下げ待機期間中は受け取ることができません。ただし、老齢厚生年金と老齢基礎年金を同時に繰り下げる必要はないので、例えば夫のほうが年上の夫婦の場合、夫は老齢厚生年金を繰り下げなければ加給年金額が受けられます。また、妻は自分の老齢基礎年金の繰下げを行わなければ振替加算の受給が可能となります。

5. 繰下げ受給と老後生活への影響

老齢年金の繰下げ受給を行う場合、繰下げ待機期間中にどれくらい生活費がかかるのか把握しておく必要があります。例えば夫婦2人の老後の日常生活費の平均は最低でも月22.1万円、 1年間で265.2万円必要だと考えられています。

夫婦2人の老後の最低日常生活費 月22.1万円×12カ月二年265.2万円
夫婦2人のゆとりある老後生活費 月36.1万円×12カ月=年433.2万円

公益財団法人生命保険文化センター「令和元年度生活保障に関する調査」

年金以外の収入がない場合、貯蓄を取り崩して生活することになりますが、これはその先の老後生活に大きな影響を及ぼします。仮に70歳まで繰り下げるとしたら、65歳から69歳までの5年間で1,326万円(年265.2万円×夫婦2人分の生活費5年間)と大きなな金額となり、これが老後のための手元資金から減ってしまいます。したがって、繰下げ受給を行うのであれば資産が十分にあるか、 65歳以降も就労などによる収入が見込めることが前提になります

年金を繰り下げることで受け取る年金額は増えるますが、その分、社会保険料や税金も高くなるので、手取り金額は額面ほど増えません。夫婦2人分の標準的な年金額とされる263.5万円を10年繰り下げて75歳で受け取る場合、増額率は84%なので484.9万円に増えますが、手取りでの年金額は423.6万円となり、増額率は74.7%に減少します。

収支で考えると、夫婦2人の老後の日常生活費(年265.2万円)は上回りますが、ゆとりある老後生活を送るために必要といわれている生活費(年433.2万円)より下回るため、毎年マイナスが生じることが考えられます。

また、年金収入が増え所得が高くなると、公的医療保険や介護保険の自己負担額にも影響します。後期高齢者医療制度において、現役並み所得者以外の窓口負担割合は1割でしたが、制度改正により2022年10月1日から、一定の所得がある人については2割負担に増えています。

6. まとめ

私は年金は「長生きした時の保険」と考えています。

死んでしまえば、もちろん年金の意味はなくなりますが、長生きした場合は生活費が枯渇してしまう可能性があります。その危険を少しでも和らげる為に年金はあります。決して贅沢するためのものではありません。

だとすると、年金をもらわずに生活に支障がなければ、受給時期を繰り下げて受け取るのが良いと思いますが、ライフスタイルは様々なので、自分に合わせて、年金の受給時期も決めましょう。

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