小規模宅地等の特例について
相続税の計算上、 税負担を軽減させる制度として「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下、 小規模宅地等の特例)があります。 小規模宅地等の特例の適用を受けられるかどうか、 どの宅地に適用を受けるかなどの判断を誤ると税額への影響は小さくありません。
今回は小規模宅地等の特例と、本特例のうち特定居住用宅地等について勘違いしやすい事例を解説します。

小規模宅地等の特例の概要
個人が相続や遣贈によって取得した財産のうち、 その相続開始の直前において、 被相続人等(被相続人または被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族)の事業の用または居住の用に供されていた宅地等がある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分については、 相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、図表1に掲げる区分ごとにそれぞれに掲げる割合を減額できます。
適用対象宅地等が複数ある場合、 特定事業用宅地等または特定同族会社事業用宅地等(合わせて特定事業用等宅地等という)と特定居住用宅地等を特例の対象として選択するときは、 それぞれの限度面積(最大730㎡)まで適用を受けることができますが、 貸付事業用宅地等を含めて選択する場合は次の算式で求めた面積が上限となります。
〈計算式〉
特定事業用等宅地等の面積×200/400 +特定居住用宅地等の面積 × 200/330 +貸付事業用宅地等の面積≦200㎡
図表1

特定居住用宅地等が複数ある場合
被相続人が複数の宅地を居住用としていた場合は、 主としてその居住の用に供していた一の宅地に適用されます。 例えば、 平日は家族と共にAマンションに居住し、 週末は郊外のB家屋で過ごす場合に、 両方の宅地に対して適用を受けることはできず、 主としてその居住の用に供していたAマンションの敷地権の持分割合部分に対してのみ小規模宅地等の特例の適用があります。
なお、 本特例は被相続人自身の居住用だけでなく、 被相続人と生計を一にする親族(※1)の居住の用に供されている被相続人所有の宅地についても適用される。例えば、 常に生活費の仕送りをしている子や高齢の親、 兄弟姉妹
などの居住用に供されている被相続人所有の宅地については、 それらの親族が相続税の申告期限まで引き続き居住の用に供しているなどの要件を満たせば本特例を適用できます。 この場合、 限度面積の330㎡までであれば被相続人自身の居住用宅地と、 被相続人と生計を一にする親族の居住用宅地の両方に適用を受けることができます。
※1 生計を一にする親族とは、日常の生活の資を共にすることをいい、同一の家屋に起居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると認められる場合を除き、「生計を一にする」ものとして取り扱われる。必ずしも同居を要件とするものではなく、例えば、勤務、修学、療養等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、 「生計を一にする」ものとして取り扱われる。
別居親族が取得した場合
(1) 相続税の申告期限までの間に貸し付け・取り壊しをした場合
被相続人の居住用財産について小規模宅地等の特例を受ける場合、図表2のとおり取得者ごとに要件が異なります。図表2の要件を満たす別居親族が取得する場合は、 相続税の申告期限まで所有継続すればよく、 相続後の利用方法は自由です。
例えば、 申告期限までの間に貸し付けたり、 その宅地上の家屋を取り壊したりしても宅地を所有していることに変わりはないため本特例の適用を受けられます。
図表2

(2)同居親族がいた場合
例えば、被相続人が兄弟姉妹と同居していた場合に、被相続人と別居していた長男が被相続人の居住用宅地を
相続した場合もそのほかの要件を満たしていれば適用の対象となります。
被相続人が法定相続人と同居している場合、別居親族は本特例の適用は受けられませんが、同居していた親族が法定相続人以外であれば適用の対象となります。
被相続人が老人ホームに入所中に相続が開始した場合
⑴老人ホーム等への入所により空き家となっていた場合
相続開始直前において被相続人の居住の用に供されていなかった宅地の場合であっても、次の要件を満たすときには、老人ホーム等に入所等をする直前まで居住の用に供されていた宅地は被相続人等の居住の用に供されていた宅地に該当します。
1. 被相続人が相続開始直前において介護保険法等に規定する要介護認定等を受けていた。
2. 被相続人が老人福祉法等に規定する特別養護老人ホーム等に入所等していた。
したがって、相続開始直前に空き家となっていても、被相続人の配偶者や要件を満たす別居親族が取得した場合は、小規模宅地等の特例の対象となります。
(2)老人ホーム等への入所により生計別となった場合
例えば被相続人が老人ホームに入所する前は同居で生計を一にしていた長男が、被相続人が老人ホームに入所した後は生計別となったが、長男が引き続きその家屋に居住していた場合、長男が取得したその宅地については本特例の適用を受けられます。
一方、被相続人が老人ホームに入所した後に新たに生計別の親族が被相続人の家屋に住み始めた場合など、被相続人の居住の用に供されなくなった後に、新たに被相続人等以外の人の居住の用に供されたり事業の用(貸付用も含む)に供されたりした場合は、本特例の適用を受けられません。
私道に対する小規模宅地等の特例の適用の有無
被相続人は相続開始直前において図表3のB宅地を居住の用に供しており、その前面のS部分はA宅地、 B宅地、 C宅地の共有の私道で、これらの者の通行の用に供されていた。 B宅地が小規模宅地等の特例の要件を満たしている場合において、私道であるS土地の共有持分についてもこの特例の対象になるか迷うところですが、私道Sの土地は、被相続人の居住用宅地等であるB土地の維持・効用を果たすために必要不可欠なものであるため、このような共有持分の宅地についても被相続人の居住用宅地として小規模宅地等の特例の対象となります。
図表3

まとめ
小規模宅地等の特例はもともと複雑なものが、ここ数年さらに複雑化する傾向にあります。しかし、適用できれば節税効果は非常に大きなものとなりますので、適用可能性がある人は、分かる人に聞いたり、最新の情報をその都度確認しておくことが大切です。
最近の改正項目
2019年度税制改正
相続開始前3年以内に新たに事業の用に供された宅地は特例の対象外となった。ただし、宅地の上にある事業用の減価償却資産の価額がその宅地の評価額の15%以上である場合は、この制限はない。
2018年度税制改正
相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地は特例の対象外となった。ただし、3年を超えて事業的規模の貸付事業を行っていた被相続人等が貸付の用に供した場合は、この制限はない。また、被相続人の居住用宅地等を別居親族が取得した場合の要件の一つが「相続開始前3年以内に自己およびその配偶者の持ち家に居住したことがない者」であったが、改正により「相続開始前3年以内に、自己およびその配偶者"3親等内親族・特別の関係のある法人が所有する国内家屋に居住したことがない者、および、相続開始時において居住の用に供している家屋を過去に所有していない者」となった。