不動産クラウドファンディングとは

従来、 不動産投資といえば、主に一棟アパー ト投資や区分マンション投資なと現物不動産への投資を指していましたが、 近年は少額の資金でも投資ができる「不動産クラウドファンディング」が新し い不動産投資の手法として注目されています。 今回は不動産クラウドファンディングの特徴や他の不動産関連投資との比較について紹介します。

1. 不動産クラウドファンディングの仕組み

不動産クラウドファンディングとは、 インターネットを通じて不特定多数の投資家から資金を集めた事業者が収益不動産を取得・運用し、 対象不動産の運用期間中の収益や売却益を投資家に分配する仕組みです。 1 口1万円から投資が可能で、運用期間は数力月から2、 3年となっています。

投資対象の不動産としては、マンションなどの居住用不動産、商業ビル、ホテル、物流施設、リゾート開発地、古民家等の空き家再生など幅広い種類があります。

不動産クラウドファンディングには、主に「匿名組合型」「任意組合型」という契約の仕組みがありますが、多くは匿名組合型を採用しています。 匿名組合とは商法535条に定められている契約方法のことで、 一般的に組合としてイメ ー ジされる「団体」ではありません。 それぞれの投資家が事業者と個別に匿名組合契約を結んで出資、 事業者が対象不動産を取得し、 利益を投資家に分配します。 匿名組合型では、投資家は不動産の所有権を持たないため、現物不動産投資が直接投資であるのに対し、不動産クラウドファンディングは関節投資となります。

匿名組合契約では投資家は有限責任のため、運用で損失が発生した場合でも、出資額を超える責任は負いません。

匿名組合

任意組合

2. 不動産クラウドファンディングの市場拡大の背景

不動産クラウドファンディングは不動産特定共同事業法(以下、 「不特法」)の枠組みのなかのスキームです。不特法は、不特定多数の投資家から出資を募り収益不動産からの運用収益を投資家に分配する事業(不動産特定共同事業)について、事業者を許可制として事業の適正な運営の確保と投資家の利益の保護を図ることを目的として1995年に施行されたものです。


不動産クラウドファンディングが急速に成長した契機は2017年の不特法の改正です。この改正では、クラウドファンディングに対応した環境を整備し、不動産特定共同事業の契約をインターネット上で完結できるようにしました。

その結果、多くの事業者が不動産クラウドファンディングに参入することになったのです。一方、現物不動産投資に対する新規融資は2016年にピークとなりましたが、金融機関の不動産への融資額の膨張を懸念した金融庁・日銀による新規融資の引き締めや不正融資問題による監視強化などをきっかけに減少し、現在は一部の属性の高い資産家や投資家を除いて融資の壁が高くなり、以前のようなフルロ ー ンでの融資が難しくなりました。


このような状況の中で、不動産投資に関心がある投資家などが、新たな投資対象として、少額の資金から投資可能で融資を必要としないREIT(不動産投資信託)や不動産クラウドファンディングなどに投資をしていることが市場拡大の背景にあります。

不動産クラウドファンディングの市場規模は、2020年度に85億6,000万円と前年34億2,000万円に比べて2.5倍と急増しており、不動産関連投資としての存在感を増しています(※国土交通省「不動産特定共同事業」(FTK)の利用促進ハンドブック令和3年6月より)

3. 不動産クラウドファンディングのメリット

(1)少額から不動産投資ができる

現物不動産投資では多額の自己資金や借り入れが必要ですが、 不動産クラウドファンディングは、1口1万円なと少額の資金から投資が可能なため、比較的気軽に不動産投資を始めることができます。

(2)物件を確認してから投資できる

投資対象の収益不動産の情報は事前に開示されているため、投資家は物件の所在、築年数、賃料、運用状況などの条件を自身で確認することができます。
また、現地に足を運び、物件の現況を実際に確かめることもできるため、現物不動産投資に近い物件選びの感覚もあります。

(3)賃貸経営の煩わしさがない

不動産クラウドファンディングでは、すべての運営を事業者が行うため、現物不動産投資のような賃貸管理の煩わしさがありません。

⑷優先劣後方式によるリスクの軽減

多くの不動産クラウドファンディングでは、優先劣後方式を採用しています。

優先劣後方式とは、投資家の出資分を優先出資、事業者の出資分を劣後出資として区分する仕組みです。


不動産運用で損失が生じた場合、損失は先に劣後出資から負担されるため、損失額が劣後出資の割合以内であれば、投資家に損失は生じません。


例えば、優先出資が80%、劣後出賀が20%のファンドの場合、損失額が総出資額の20%以内に収まれば投資家の損失はありません。劣後出資の割合が高いほど元本割れのリスクが軽減され投資家の安心感が高まります。

4. 不動産クラウドファンディングのデメリット

⑴元本保証ではない

不動産クラウドファンディングの多くは優先劣後方式が採用されているといっても、 一定以上の損失が発生すると元本割れが起こります。 そのため、ファンド自体の安全性や事業者の信頼度についても検討することが必要です。

(2)レバレッジ投資ができない

現物不動産投資では融資を活用することで、自己資金以上の投資が可能ですが、 不動産クラウドファンデ ィングでは原則自己資金での運用しかできません。

(3)運用期間中は売却ができない

不動産クラウドファンディングでは原則として中途解約が認められていません。そのため、 運用期間中に 資金が必要になった場合でも換金することができません。(なかには投資家の出資分を買い取るスキームなどにより、 実質的に運用期間中の換金を認めている事業もあります。)

(4)運用期間が短い

各ファンドの運用期間は数ヵ月から数年程度と短期のものが多く、 長期で資産運用を継続したい場合は、別の運用先を探さなければなりません。

(5)税務上のメリットがない

現物不動産投資の場合、不動産所得の損益通算や、相続税 ・ 贈与税における評価額の圧縮効果が期待できますが、不動産クラウドファンディングの場合、投資家は対象不動産の所有権を持たないため、このような税務上のメリットを受けることができません。

5. 他の不動産関連投資との比較

不動産クラウドファンディングのように小口から投資できる商品に、REITと不動産小口化商品があります。 それぞれの特微を比較しながら確認しましょう。


REIT(不動産投資信託)は、投資家からの出資を基に不動産投資法人が複数の収益不動産を取得 ・ 運営し、利益を投資家に還元する仕組みですが、実際には金融商品になります。日本のREIT市場に上場している REITをJ-RIEITといい、株式のように取引することができます。投資対象の不動産は、住居系、オフィス系、商業系のほか、宿泊系、物流系、ヘルスケア系なと多岐にわたります。

不動産小口化商品とは、事業会社が取得した収益不動産を小口化して不特定多数の投資家に販売し、 家賃収入や売却益を分配するものです。 不動産小口化商品も不特法で定められたスキームのひとつですが、不動産クラウドファンディングとは別の仕組みです。この投資対象の不動産は、オフィスビルや商業ビルなと大型物件が多いことも特徴です。

不動産小口化商品には匿名組合型と任意組合型があります。

匿名組合型は投資額が1口数万円程度と少額で、運用期間も数ヵ月と短期で、優先劣後方式を採用しています。

任意組合型は、投資額が1口数百万円と、匿名組合型と比べて高額で、運用期間も一般的に10年以上と長期になります。

不動産クラウドファンディングは、不動産投資の新しい流れの中で、今後ますます成長が期待されています。不動産投資の一つの手法として注目していく必要がありそうです。

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